大判例

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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)76号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和二十六年七月二日控訴人に対してなした運転免許取消処分を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、

一、本件事故の発生したのは昭和二十六年五月十七日午後十時五十分頃で、その現場は若松市大町五丁目二百六十二番地煙草屋旅館前の街路上である。

二、被控訴人は左記の事件については、いずれも百日間の運転免許の停止処分をしたに過ぎないのに、控訴人に対してのみ運転免許の取消処分をしたのは処分の均衡を失し不当である。

(イ)  昭和二十四年十二月十六日若松市赤井町青物商坂内与太郎方の運転手加藤千代次は、自動三輪車を運転中山手某を轢殺した。

(ロ)  昭和二十五年九月十九日北会津郡神指村大字柳橋本山田八太郎の息某は、白岩寅次を轢殺して逃走した。

(ハ)  昭和二十六年六月三十日会津合同乗合自動車株式会社の運転手記野稔は、山田春雄を轢殺した。

三、本件事故発生当時控訴人は泥酔していなかつたのである。

と述べ。被控訴代理人において、

一、控訴人主張の右一、の事実は争わない。

二、控訴代理人の前示実例中、

(イ)  の場合の行政処分は運転免許の停止三ケ月であるが、右は被控訴人の処分したのではなく、若松市公安委員会が行つたものである。

(ロ)  の事故は山田敏美の起したものであるが、同人に対しては被控訴人において運転免許の取消処分の決定をしたところ、検察庁が取調の結果同人に犯罪の嫌疑がないとして不起訴になつたから、右行政処分の執行はしなかつたものである。

(ハ)  の場合も若松市公安委員会のした処分であつて、被控訴人のした処分ではない。

而して右(イ)(ハ)の場合はいずれも被害者である幼児や自転車が、進行中の自動三輪車の前方進路に飛び出して来たものであるから、運転者の過失は軽徴と認められるに反し、本件は人車の交通稀な午後十時五十分頃若松市内の大通りで幅員八、八メートルもある平坦にして直線の見通しよい舗装道路上で、しかも標識として懐中電燈附の白杖を携えて徐行していた盲人に衝突しこれを死亡せしめたのであるから、右の実例に比べ控訴人の過失は重大である。

三、控訴人は生来酒を好み事故当夜も酒気を帯びていたのであり、本件事故前の昭和二十五年七月中も酔つて自動三輪車を運転操縦して電柱と衝突し、負傷者を出した前歴もあるのである。また控訴人は平素高速度運転を好み高速歯車を標準品と異る別個の歯車と交換し、高速度運転を自慢していたものであつて、運転手仲間では「喜多方街道の虎」と異名を附けられ、彼等が控訴人の自動三輪車とすれ違う場合は道端に停車して控訴人の車をよけるを常としたといわれている程である。

と述べた(証拠省略)。

三、理  由

控訴人がかねて自動三輪車の運転免許(第一九二三号)を受けていたこと、昭和二十六年五月十七日午後十時五十分頃自動三輪車を運転中若松市大町五丁目二百六十二番地煙草屋旅館前の街路上で車を訴外安藤房吉に衝突させこのため同人が死亡したこと及び被控訴人が同年七月二日控訴人に対し右事故は控訴人において時速二十五粁で自動三輪車を運転中、過失により惹起したものであることを理由として道路交通取締法第九条第五項、道路交通取締令第四十九条に基き控訴人の運転免許を取消す旨の処分をしたことはいずれも当事者間に争がない。

そこで本件事故は控訴人の過失によつて生じたかどうかにつき案ずるに、成立に争のない甲第四号証、乙第二乃至第九号証、原審証人米山藤太、中村忠正、星芳蔵、藤田進一郎、佐藤政輝、伊藤文造(第一、二回)当審証人渡部八郎の各証言、原審検証の結果、原審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すると、次の事実が認められる。

一、控訴人は当日夕刻東山温泉の不動滝旅館で開かれた福島県自家用自動車組合若松支部の総会に出席し、同所で一人当り約一合五勺の酒がでたので、元来酒好きな控訴人は二合位飲んだが酩酊したという程ではなかつた。

二、帰途同地福住旅館に立ち寄り雑談した後午後十時二十分頃、自家用自動三輪車ミヅシマ号を運転して若松市営町の中山木炭店に到り、煉炭を積込み、更に同市桂林寺町食料品商星芳蔵方に立寄つてサイダーを積んだ後、右三輪車を操縦して若松市大町方面から若松駅方面に向け時速二十五粁の速度で進行し、午後十時五十分頃同市警察署大町交番前を通過した。

三、すると間もなく前方約三十米先の路上にいる被害者安藤房吉を発見したのであるが、安藤房吉は盲目のあんまで当時右街路を大町方面に向つてながしているところであつた、しかし控訴人は同人がその場に停立しているものと誤信したので僅かにハンドルを右に切つたのみで同人の右側(東)を三尺の間隔を保つて通過しようとしたところ、同人は自動三輪車の前面に歩みを移し初め、控訴人は約五米に接近してからこれに気附いたので急拠制動をかけると共に右にハンドルを切つたが間に合わず、自動三輪車の左前部を同人に衝突せしめたのであるが、当時控訴人は末だ酒気を帯びていたこと、

四、同夜は少し雨が降つていた関係もあつて特に暗かつたが、現場附近は若松市でも大通りで幅員も九、八米あるのであるから道路脇三、二五米位のところに砂利や砂が置いてあつたけれども車馬の交通には何等の支障もない状況にあつたし、安藤房吉以外の人車の交通はなかつた。

以上の事実が認められるのであつて、前示控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

而してかゝる状況の下で自動三輪車を運転する者は人車の交通も稀な夜ふけであるとはいえ、前方の注視を厳にし速力を低減する等事故発生を妨止するため萬全の注意を施すことは勿論、特にその進行方向三十米先の路上に人影を発見したときは他に注意すべき人車の交通もないのであるから、絶えずその者の態度に注意すると共に直ちに警音器を鳴らしてこれに対する同人の反応を見きわめ、しかもなお同人が自動三輪車の進行に気付かないで待避する様子も見えないときは緩急に応じいつでも停車できる程度に速度を低下する等事故の発生を未然に防止するだけの処置をとるべき義務があるに拘らず、控訴人はわずかにハンドルを右に廻しただけでそれ以上何等の措置をとらないで漫然進行を継続した為本件事故を惹き起したのであるから、本件事故は控訴人の前記注意義務を怠つた過失によるものと認めなければならないのであつて、右認定を覆すに足る証拠はない。

しからば控訴人の右行為は過失により自動三輪車によつて人を殺傷した場合にあたるから、道路交通取締法第九条第五項、道路交通取締令第四十九条第三項第一号の規定に徴し、被控訴人が控訴人に対し前記のような処分をしたとしても違法ということはできない。

控訴人は本件運転免許の取消処分は前例に比し重きに失すると主張するが、控訴人提出の全立証によつても右主張事実を認め難く、却つて成立の争のない乙第一、十一号証、原審証人塚原由男、藤田進一郎、冠木時彦、当審証人渡部八郎の証言を綜合すると、控訴人は平素粗暴な運転をする傾向があつて、運転手仲間からは「喜多方の虎」と称して恐れられていたこと及び昭和二十五年六月十二日頃にも飲酒酩酊して自動三輪車を運転し電柱に衝突した結果、同乗の冠木時彦を負傷せしめた事実があることが認められるのであるから、これ等の事実と前叙認定の事実とを綜合するときは、本件運転免許の取消処分を以つて重きに失し、前例に比して著しく不公正であるとする控訴人の主張は当らないものといわねばならない。

よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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